2018年のマレーシア映画を振り返る ～興行成績ランキングを基に～
世界的には『グレーテスト・ショーマン』の熱気が冷めやらぬうちに幕を開け、『ボヘミアン・ラプソディー』が大旋風を巻き起こした2018年。日本では『カメラを止めるな！』と『万引き家族』が大きな話題となった年でもあったかと思います。そんな中マレーシアでは、歴代興行成績の上位3位が下半期にどんどん塗り替えられるという驚きの年となりました。
Mamat Khalid（ママッ・カリッド）監督の『Hantu Kak Limah』（ハントゥ・カッ・リマ、直訳：お化けのリマ姉さん）は、決して壮大なスペクタクルのドラマでも手に汗握るドキドキのサスペンスやアクションでもないけれど、マレー系一般市民の心をグッと鷲掴みにするような笑いのエッセンスが全編通して絶妙に散りばめられているホラーコメディ。8月9日の公開初日に180万リンギ売り上げて初日興行成績史上最高額をマーク、そのままグングンと売り上げを伸ばして、最終的にはマレーシア映画初の国内興行収入3千万リンギ超えを達成しました。
その直後の8月30日に公開となった『Munafik 2』（ムナフィック２）は、2016年に公開された大ヒット作『Munafik』の続編で、ウスタズ（イスラム教研究者/教師）であるアダムが黒魔術による呪いと戦うかなりグロテスクな感じの超自然ホラー映画。1作目に引き続いて監督のSyamsul Yusof （シャムスル・ユソッフ）が主演も務め、前作以上の人気で結果『Hantu Kak Limah』を抜いて首位に躍り出ました。
その2作品に続いて3位となったのは、マレーシア海軍の特別チーム“PASKAL”を描いたアクション映画、Chang Kin-Kwok（チャン・キン－クウォック）監督の『PASKAL』（パスカル）。8月31日の独立記念日、9月16日のマレーシアの日と、国民の愛国心が高まっている時期の9月27日にその公開をぶつけ、初日で200万リンギを売り上げました。1千万リンギというマレーシア映画史上最も高い製作費が費やされた作品ではありますが、3千万リンギという好成績を収めることとなりました。
ここで注目すべきなのは、前年までの歴代上位5位の売り上げが1,600万〜1,800万リンギ、2017年に至っては、1千万リンギ越えはわずか1作品のみであったのに対し、2018年のヒット作上位3作品は3千万リンギ以上と突如大幅に上回っていること。特段景気が改善したわけでもない状況下で、一体何がこの国産映画ブームの引き金となったのか。対抗するハリウッドその他の外国作品が特に弱い時期だったのか、この3作品の内容が特別魅力的だったのか、あるいは広報戦術に長けていたのかなど、その可能性は考えれられても、これといってはっきりとした理由が見つからないのが不思議なところです。
また、これら3作品以外にも、『Munafik２』のShamsul Yusof監督の弟SyafiqYusof（シャフィク・ユソッフ）が監督した『KL Special Force』が120万リンギの売り上げで歴代10位に入ったほか、2006年に制作されながらも公開されず幻の作品として知られていた、伝説の黒魔術師が起こした事件を題材にしたとされるDain Said（デイン・サイド）監督の『Dukun』（ドゥクン）も4月に突如公開され、990万リンギを売り上げて歴代13位に入る健闘を見せました。
しかし当然のことながら、すべてのマレーシア映画がヒットしたわけではありません。公開の随分前から大々的に宣伝し、期待度の高かった歴史ドラマ『Pulang』（プラン）は予想に反して伸び悩み、200万リンギという少々残念な結果に終わったほか、チケット収入がなんと驚きの僅か3,536リンギだった『Bidong The Boat People』は、その売り上げの低さにも関わらず、実はCGI（コンピューター生成画像）のためにマレーシアフィルム開発公社FINASから130万リンギの助成を受けていたことが取り沙汰され、ちょっとした騒ぎにもなりました。また、歴代10位の中に『The Journey』と『Ola Bola』の2作品が入っているヒットメーカーChiu Keng Guan(チウ・ケングアン)監督の『Think Big Big』は、そのタイトルの通り、体の大きな女性主人公がダイエットに励むその経過と結果がもたらす苦悩、そして人間としての成長を描いた物語でしたが、こちらも期待されていたほどには振るわず、500万リンギの売り上げにとどまりました。
いずれにしても、国産映画により多くの人々が足を運ぶようになったのは素晴らしいこと。あとはもう少しクオリティの面で、海外にも胸を張って出していけるような良い作品が増えてくれることを期待しています。
Munafik２予告
Hantu Kak Limah 予告
