東京国際映画祭で、マレーシア出身ブラッドリー・リュウ監督の「モーテル・アカシア」上映


第32回東京国際映画祭が10月28日~11月5日まで、六本木ヒルズほかで開催されました。

 

東南アジア映画に焦点を当てた「国際交流基金アジアセンター presents CROSSCUT ASIA ♯06 ファンタスティック! 東南アジア」では、SF、ホラー、ファンタジーなど、異世界を描いた東南アジア映画が紹介されました。残念ながら、マレーシア映画の上映はなかったのですが、それぞれの地域の世界観が現れていて、なかなか面白かったです。

 

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さて、そんなわけで、今回の東京国際映画祭では、ザ!マレーシア映画はなかったのですが、マレーシア出身で、現在はフィリピンを拠点に活動しているブラッドリー・リュウ監督の「モーテル・アカシア」が上映されました。(マレーシア関連では、「サイエンス・オブ・フィクションズ」にもAstro Shawがプロデューサーとして参加)

 

ブラッドリー・リュー監督は、年老いた(物まね)歌手を描いた長編デビュー作「墓場にて唄う(Singing in Graveyards)」が、2017年の大阪アジアン映画祭で上映されています。

 

今作「モーテル・アカシア」は、

 

雪山の中にあるモーテル。疎遠だった父親からこのモーテルを引き継ぐように言われたJCだが、(不法?)移民からお金をとって国外脱出の便宜を図るという触れ込みのこのモーテルは、実はモンスターを使って、不法移民を「始末」するための場所だと知り、それを拒否。車の中で争っているうちに父親は事故でなくなってしまうも、新たに3人の「客」がやってきて、JCはモンスターの正体もわからないまま、彼らの相手もしなければならず・・・。

 

といった感じのあらすじ。

 

正直、クリーチャー系の映画は普段ほとんど見ないので、あまりちゃんとした感想はいえないのですが、フィリピンのガベルという木の精霊(?)をモチーフにしたというモンスターは、迫力満点でした。

 

さらに、この映画では東南アジア数カ国のキャストが集結。主演のJCサントスと、父親の時代からモーテルへの客集めに協力してきた女性役のアゴット・イシドロはフィリピン、インドネシアのニコラス・サプトゥラ、タイのヴィタヤ・パンスリンガム、そしてわれらがマレーシアからは、ブロント・パラレ。東南アジアの人気俳優勢ぞろい、といった感じでした。

 

終映後のアフタートークで、司会をしていたプログラム・ディレクターの石坂健治さんに話を振られた、マレーシアのエドモンド・ヨー監督からも「東南アジアが結集していてうれしかった」という感想がありました。

 

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そして、映画の中でかなりきっちり描きこまれていたのが、移民問題。舞台としては架空の欧米のどこかの国(撮影はスロベニア)だったと思うのですが、トランプの移民政策のような報道が、画面の後ろで聞こえてきていたり、モーテルの近くに住んでいる人たちも、移民が「片付けられること」を歓迎していたり、といった話が挿入されていました。それについて監督は、「映画は声であり、一人のアーティストとしてできることをしていきたい。世界を変えることは、簡単にはできないかも知れないが、思うことを声にし、声を持つことは大事だと思う。クレイジーな世の中で声をあげ、憎しみあうのではなく、いい関係を築くために、声を使っていきたい」と言っていたのが、印象的でした。

 

来年の東京国際映画祭では、ザ!マレーシア映画も見れたらなと思います。

 

インタビュー:Nam Ron

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「あぱかば通信」のマレーシア映画人インタビューシリーズ(になるといいな)!

今回は、俳優として、また監督として活躍するNam Ron(ナムロン、Namronとも表記)さんです。
Yasmin Ahmad(ヤスミン・アフマド)監督の「Gubra(グブラ)」やDain Said(デイン・サイード)監督の「Bunohan(ブノハン)」など、日本で上映された作品も含め、本当に数多くの作品に出演するNam Ronさん。一方、脚本・監督を務め(脚本は共同)昨年公開された「十字路(Crossroad:One Two Jaga)」は、マレーシア映画祭で最優秀作品賞、監督賞、脚本賞、原作賞、主演男優賞、ポスター賞を受賞、アジアフォーカス・福岡国際映画祭はじめ、数々の海外の映画祭で上映され、現在はNetflixでも見ることができます。

Nam Ronさんに、「十字路」と自身についてお話を伺いました。

Q:「十字路」を撮ろうと思ったきっかけは何ですか?

A:以前から警察の汚職の問題を取り上げたいと考えていました。マレーシア国民であればほとんど全ての人がこの問題について知っていますが、これまでそれを扱った映画は作られていません。映画検閲委員会(LPF)とマレーシア国家警察(PDRM)は非常に厳しく、それを許可してこなかったからです。そのためこうした映画を作ろうという勇気を持ったプロデューサーはいませんでした。この映画のプロデューサー、Bront Palarae(ブロント・パラレ)がこの映画を製作するリスクを負ってくれ、そこからすべてが始まりました。これまで行われたことがないことを行ったのです。

Q:映画の製作にあたり最も大変だったこと、また最もうれしかったことは何ですか?何か印象的なエピソードがあれば。

A:最も大変だったのは、警察との交渉でした。マレーシアではストーリーの中に警察が絡む映画は、彼らからの許可が必要です。台本を送り、確認してもらう必要があります。最初は完全に却下されましたが、その後交渉のテーブルにつくところまでこぎつけ、いくつかの変更を行いました。何度も交渉を行い、やっと許可を得て、撮影をすることができるようになったのです。しかし登場人物の性格や物語の流れによって、警察から許可を得ることができなかったシーンを入れる必要が生じました。映画が完成した後で、そのシーンはカットするよう求められました。しかしLPHが私たちの側に立ってくれたため、ほんの小さなカットを行っただけで映画を上映することができるようになりました。「十字路」を製作するプロセス自体が最も困難なことで、製作し上映できたことが、最もうれしかったことです。
Q:映画に出演する俳優はどのように選びましたか?特にインドネシアの俳優が出演していますが、彼らのことをどのように知り、また出演をお願いすることになったのでしょうか?

A:マレーシア人の俳優はほぼ全員私が自分で選びました。すでに長い付き合いの人たちばかりです。(Sugiman(スギマン)を演じた)Ario Bayu(アリオ・バユ)はBrontの友人です。彼らはJoko Anwar(ジョコ・アヌワー)監督の作品で共演したことがあります。BrontがBayuはどうかと提案したので、クアラルンプールに来て、台本を読んでもらい、面談しました。初めて会ったときに、彼こそ私が探していた人だと思いました。Asmara Abigail(アスマラアビゲイル)も同様です。Brontは彼女のことをジャカルタで知りました。当時彼女はモデルの活動をしていて、Garin Nugroho(ガリン・ヌグロホ)監督の「Setan Jawa」に出演した経験があるだけでした。Joko AnwarやGarin Nugrohoという錚々たる監督が選んだ彼ら二人を、私が断るわけがありません。実際彼らは、本当に生き生きと役を演じてくれ、素晴らしい俳優であることを証明しました。「Neo Manila」に出演していたTimothy Castillo(ティモシー・カスティーリョ)も、Brontがマニラで映画のプロジェクトに関わった時に知り合いました。彼も素晴らしかったです。

Q:マレーシアの観客の反応はいかがでしたか?

A:この映画が映画館で上映されたとき、観客からはたくさんポジティブな感想をもらいました。権力を持った人たちの間の汚職の問題を取り上げる映画がやっと出てきたのでとても喜んでいる人が多かったと思います。これ以前にはこのような映画が映画館で上映されることはありませんでしたし、もちろんテレビでも同様でした。


Q:この作品はマレーシア以外の国で上映されています。海外での反応はいかがでしたか?

A:「十字路」が海外の映画祭で上映された時の本当に多くの反響やフィードバックをもらいました。しかし、彼らはより外国人労働者の問題に興味を持つようです。なぜなら彼らにとっても身近な問題だからです。イタリアのウディーネでは、現地でも同じ問題があり、外国人労働者の問題はとても重要だと言われました。中国の上海では、権力者の汚職の問題により関心が持たれ、議論されました。その他に、この作品はニューヨーク、ワルシャワ、台湾、イラン、インド、シンガポールで上映されています。

Q:原題は「One Two Jaga」ですが、英語のタイトル「Crossroad(十字路)」にはどのような意味が込められていますか?
(※「One Two Jaga」は、映画の冒頭部にも挿入されている、マレーシア版ケイドロ(ドロケイ/ドロジュン)の中で歌われる歌の一節です。)

A:この映画は、法律に基づかない方法でマレーシアに入国した外国人労働者が、そのことについて当局とせめぎあう経験を語る、というのがもともとのアイデアでした。「十字路」は、この世界で生きていく中で、私たちは「十字路」に差しかかった時に道を選ばなければならないことを意味しています。この映画でもそれぞれの登場人物は、自分たちの人生を続けていくために、それぞれの道を選んでいます。

Q:ご自身について少し教えてください。お芝居に関心を持ったのはいつ頃ですか?また映画などアートの世界にどのように関わるようになったのですか?

A:小さい頃、私は無口で一人でいるのが好きな子どもでした。自分の周りにいる人々を観察する方が楽しかったのです。子どもの頃から映画を見るのが好きで、そこから物語を作ったり、物語を伝える人になったりすることに関心を持つようになりました。社会のために社会についての話を共有するために、芝居というメディアを使いました。その後芝居は物語を共有するのに弱い点があると考えるようになりました。物理的(ロジスティック)な制限のため、完全ではないのです。映画の方がより移動しやすく、国内のどこでも、さらには世界で上映できると思います。そのため、最近は映画を通して物語を語る方を好んでいます。
アートの世界との関わりは1989年に出身地のPerlis(プルリス)州で劇団に参加したのが始まりです。芝居の世界で5年間活動した後、芝居の勉強をするため1994年に国立芸術アカデミー(Akademi Seni Kebangsaan/ASK、現在はASWARAと改称)に入学しました。それ以降クアラルンプールで脚本を書いたり、演出をし始めました。自分の劇団(Alternative Stage(1996~2008)、Rumah Anak Teater(2008~2013)、Ayaq Hangat Entertainment(2013~現在))も立ち上げています。1989年からこれまで数十の舞台に関わってきました。
 映画については、舞台とは違いフォーマルな教育は受けていません。最初は俳優として関わるようになり、2003年に初めて「Paloh」に出演しました。初めて監督をしたのはインディーズ映画の「Gedebe」(2003)で、その後「Gadoh」(2008)、「Jalan Pintas」(2010年)を監督しました。この3作品は映画館では上映されず、アンダーグラウンドでの上映でした。2013年に初めてのメインストリーム映画である「Psiko : Pencuri Hati」、2018年に「Crossroad : One Two Jaga」の監督を務めました。最新作「Masterpiecisan」は、今後上映される予定です。

Q:「十字路」はNetflixでも見ることができます(Netflixでのタイトルは「それぞれの道」)。視聴者に何かメッセージはありますか?

A:この映画は2018年のマレーシア映画祭で最優秀作品賞を受賞しました。また最優秀監督賞、最優秀原作賞、最優秀脚本賞、最優秀主演男優賞も受賞しています。2019年のアセアン国際映画賞(AIFA2019)でも最優秀監督賞と最優秀助演男優賞を受賞しました。現在「十字路」はNetflixで世界中で見ることができます。日本のみなさんにもぜひ見てもらいたいです。

Q:今後の活動について教えて下さい。次回作の予定はもう決まっていますか?

A:現在は、最も新しい作品となる「Matderihkolaperlih」の脚本を仕上げているところです。この作品はマレーシアの政治の世界のギャングの問題を扱っています。今回は海外のプロデューサーと組んでいます。来年の始め頃撮影に入る予定です。

エクスペリメンタル映画特集上映@イメージフォーラム・フェスティバル2019

ギリギリのお知らせになってしまいましたが、9/14~23まで、渋谷のシアター・イメージフォーラムで開催されている「イメージフォーラム・フェスティバル2019」の「アジア・エクスペリメンタル・フィルム・フェスティバル・ミーティング」プログラムの中で、アジア各国のエクスペリメンタル映画の特集上映が行われます。

マレーシアはクアラルンプール・エクスペリメンタル・フィルム・ビデオ&ミュージック・フェスティバル(KLEX)で上映された映画11作品が上映され、KLEXのフェスティバル・ダイレクター、Kok Siew Wai(コク・シーワイ)のトークがあります。(9/19(木)21:15)
http://www.imageforumfestival.com/2019/program-q7

また、Kok Siew Waiは、シンポジウムR1 「フェスティバルとエクスペリメンタル・ シネマ-今なぜ実験映画なのか?」にも登壇する予定のようです。
http://www.imageforumfestival.com/2019/program-r1

 

 

Pangrok Sulap、あいちトリエンナーレで来日

 

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ここ数日、たくさんニュースが流れている「あいちトリエンナーレ」ですが、

その「あいちトリエンナーレ」に、マレーシアのサバ州を拠点に活動するアート・コレクティブ、Pangrok Sulap(パンロッ・スラッ)の作品が出品され、メンバーが来日しています。

(写真提供:Pangrok Sulap)

 

サバ州はキナバル山の麓ラナウを拠点に活動するPangrok Sulap(最近拠点をコタキナバルに移しましたが)。作品の多くは、主にサバの人々の生活や、抱える問題などをテーマに、力強く、そして親しみのある版画で作られています。


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「あいちトリエンナーレ」のために製作された今回の作品は縦1.1m×横4.3という非常に長い作品で、「進化の衰退(Falls of the Evolution)」というタイトルがついています。

 

 

左から、ヒトが自然と共にあった時代、やがて工業化が進み、貨幣が作られ、ヒトは知識を得つつも、テクノロジーに翻弄され、その中で、アート・コレクティブは、個々が分かれているのではなく、みんなで集まって、再び木を植え、自然に寄り添って生きる道を模索する、というのが描かれているそうです。今回はどこでもない場所を表すために、敢えて人ではなく、昆虫を登場させているのだとか。

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大きな作品ですが、細かくみていくと、いろいろ小ネタも挟まれていて、とても楽しいので、特に名古屋近辺にお住いの方は、是非会場に足を運んでみてみてください。

 

(作品の説明をしてくれたRizo Leongさん) 

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Pangrok Sulapのメンバーは8/5まで名古屋に滞在した後、

8/6~11:東京
8/12~14:横浜
8/15~17:東京
8/18~21:名古屋
8/22~26:設楽町(「あいちトリエンナーレ

と、回るそうです。

8/16(金)には新大久保のEarthdom
http://www1.odn.ne.jp/~cfs81480/index.html/2019.08.html

8/18(日)には名古屋・新栄町のparlwrで、
http://www.parlwr.net/

それぞれワークショップが企画されているようです。
こちらの方も是非。

横浜の企画は、情報が分かり次第、お知らせします。


※横浜の企画追加です。


8/10(土)16:00頃~18:00「木版画ワークショップ」@横浜パラダイス会館

https://www.facebook.com/events/1511579085656688/?ti=as


8/13(火)13:30~16:00 「Do it together- 共につくる-」@ 横浜市東小学校ルームA

https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=10218242564108998&id=1037127652


 






伝説の監督 ヤスミン・アフマド特集

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6本の長編作品と数々の素晴らしいテレビコマーシャルなどを残して、世界中の多くの人々に惜しまれながらヤスミン・アフマド監督がこの世を去ってから、この7月25日で10年が経とうとしています。これまでもヤスミン監督の作品は繰り返し日本で上映されてきましたが、今回は没後10周年ということで、渋谷のシアター・イメージフォーラムにて、7月20日〜8月23日まで特集上映が行われます。上映スケジュールなど、詳しくはこちらからどうぞ。

映画『伝説の監督 ヤスミン・アフマド特集』公式サイト

 

さて、せっかくの長期に渡る全作品上映ということで、Makcik Bawang がちょっと変わった見所から各作品をご紹介します。

 

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『ラブン』(Rabun)

オーキッド4部作の第1作と位置付けられる作品で、ヤスミン監督自身のご両親をモデルにしたと言われており、実際にクアラルンプール近郊のご両親の家で撮影された。テレムービーとして作られたため、マレーシアにおける劇場公開はなかったが、実は6作品の中で『ラブン』が一番好き、という人も結構多い。

 

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『細い目』(Sepet)

ヤスミン監督の名を世に知らしめた名作。ヤスミン監督のミューズとして知られるシャリファ・アマニのデビュー作でもある。マレー系オーキッドと中華系ジェイソンの異民族間の恋物語を軸に、民族や言葉の混ざり具合やマレー優遇制度の問題などにも正直に、かつカジュアルに触れ、多民族国家マレーシアを巧みに映し出している。

 

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『グブラ』(Gubra)

『細い目』の続編ではあるが、オーキッドの物語とそれとは全く別の物語が並行して描かれている。イスラム教徒が犬を労わり触れるというシーンから、売春婦やエイズにまつわる話をも果敢に盛り込んで、様々な疑問をマレーシアの社会に投げかけ話題になった。「許す」ということの意味についても大きく考えさせられる作品である。

 

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『ムクシン』(Mukhsin)

オーキッドの少女時代に遡った淡く切ない恋物語。オーキッドはシャリファ四姉妹の四女、シャリファ・アルヤナが演じ、その母親役には当時既に女優やテレビ番組の司会者などで活躍していた長女のシャリファ・アレヤ。物語の途中でほんのすこしだけ『細い目』のオーキッドとジェイソンが意味深に登場するが、カメオといえば、ソファを引き取りにくる家具屋二人はホー・ユハン監督とリュウ・センタット監督である。

 

 

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『ムアラフ〜改心』

シャリファ・アマニ演じる主人公の妹役に、シャリファ四姉妹の三女、シャリファ・アレイシャが登場。スキンヘッドのアマニの頭にキスするヤスミン監督の写真が作品の公開前から多くのメディアに取り上げられた。シンガポールではコピー/盗撮される心配がないという理由から、先にシンガポールにて公開されたこともあり、マレーシアでの公開はタレンタイムの後となった。

 

 

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『タレンタイム』

これまでも何作品かに登場し、本作ではアヌアール先生を演じているのは、ヤスミン監督の個人ドライバーだったアヌアールさん。そしてその同僚で仲良しの中華系の先生を演じているのは監督の実のご主人。何度見ても涙してしまうシーンの一つが、ガンを患うハフィズの母親の病室でのシーンだが、演じているのは大女優の故アゼアン・イルダワティで、撮影当時は自身もステージ4のガン患者であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 

 

呼吸する地図たち/響きあうアジア2019

昨年12月から3カ月に渡り山口情報芸術センターYCAM]にて開催された「呼吸する地図たち」。以前このブログでもご紹介したこの展覧会の映像アーカイブの展示+連日異なったレクチャー・パフォーマンスという新たな構成の「呼吸する地図たち」東京バージョンが、7月10日〜15日まで池袋の東京芸術劇場ギャラリー1にて開催されます。

現在、海外からも引っ張りだこのマレーシア人演出家マーク・テ(Mark Teh/Five Arts Centre)がゲストキュレーターを務めるこの企画。東南アジアの過去と現在、そして未来を映し出す様々な地図を感じてみて下さい。

jfac.jp

インタビュー:Sharifah Amani

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2005年、故Yasmin Ahmad(ヤスミン・アフマド)監督の『Sepet』(邦題『細い目』)で衝撃的なデビューを飾ったSharifah Amani(シャリファ・アマニ)さん。その後も『Gubra』(『グブラ』)、『Mualaf』(『ムアラフ~改心』)に出演し、まさにヤスミン監督のミューズとして、マレーシアのみならず日本やインドネシアでも人気の高い女優さんです。また、次女である彼女の他にも、長女Sharifah Aleya(シャリファ・アレヤ、『ムクシン』の少女オーキッドのお母さん役)、三女Sharifah Aleysha(シャリファ・アレイシャ、『ムアラフ~改心』の妹役)、四女Sharifah Aryana(シャリファ・アルヤナ、『ムクシン』のオーキッド役)の4姉妹がそれぞれに活躍、シャリファ・シスターズと呼ばれています。デビューから14年。あのあどけない『Sepet』のオーキッドから美しい大人の女性へと成長した彼女ですが、これまで積み重ねてきた彼女のキャリアには、ヤスミン監督との強い結びつきと共に、家族からの強力なサポートが不可欠であったように思えます。その辺りのお話を伺ってみました。

 

Q:若草物語のような四姉妹の次女として育たれましたが、他の3人、そしてご両親共にとても仲の良い家族という印象を受けます。何がそのような強い家族の絆を生み出していると思いますか?

A:私の父母は二人とも、面白くて賢くて、小さい頃から私たち姉妹のヒーローでした。そんなヒーローたちにすごいと思ってもらいたくて、そのために自分を高めたいという気持ちが常に私たちの中にあったと思います。今日はこんな本を読んだ、こんな面白いものを見たと、両親に挙って報告する毎日でした。そして両親は私たちに、家族だけはどんなことがあっても絶対に私たちを守り、愛し続けてくれる存在なのだと繰り返し教えてくれました。だから、どんな行動をとるにしても、それに対して私の両親が、そして姉妹たちがどう思うかということが一番気になります。なにかちょっと悪さをしそうになった時も、彼らの顔が目に浮かびます。自分が出演している作品をまず観て欲しい、まず彼らの感想を聞きたいと思うのは、良い所を褒めるだけでなく、ダメなところも厳しい目できちんと批判してくれると信頼しているからだと思います。

 

Q:そして、四姉妹ともクリエイティブに成長されましたね。皆さんそれぞれにテレビ、映画、舞台、プロデューサー業等々、各方面で活躍されています。それにはやはり、女優のお母様と写真家でもあるお父様やその周囲の方々の影響があるのでしょうか?

A:それはもう、避けられない環境だったと言ってよいと思います。よく両親に連れていかれて映画やお芝居、展覧会のオープニングへと足を運びましたし、母は新聞記者としても働いていましたので、学校が終わるとそのまま新聞社へ連れて行かれ、母の仕事が終わるまでそこで時間を過ごす、ということもしょっちゅうありました。その頃よく面倒を見てくれていた若手の記者達は、今は皆もう立派な編集者になっています。
父は良く私たちに、当時の私たちの年齢にはちょっと早過ぎるような大人向けのものを率先してみせてくれました。麻薬の恐ろしさを教えるために『トレインスポッティング』を、人権問題を学ぶために『カラーパープル』を見せられたことを覚えています。そしてその後に必ず議論の時間があり、私たちが疑問に思ったことに対して、はぐらかすとか適当に答えるとかいうことは絶対にありませんでした。疑問を抱くことは良いことで、どんな質問にもきちんと答えてくれる。答えるのが難しい時は、一緒に考えてくれる。そうやって、モラルや社会問題などを幼いころから芸術作品を通して学んでいったのだと思います。

 

Q:アマニさんは、日本とのつながりも強いようにお見受けします。日本の映画や舞台の制作現場から受ける印象というのはどういうものでしょうか?

A:必要であると感じたら、言われなくても自主的に動くという姿に何度も驚かされました。例えば『ビューティフル・ウォーター』(*1)の中でトゥドゥン(ヘッドスカーフ)を被るという話をしていた時に、衣装変えを素早くしないといけないからマレーシアで手に入るようなインスタントのもの(ストレッチ素材でスポっと被るだけで形になるもの)がいいんだけどと言っていたら、ものの数十分で衣装さんがちゃんと脱ぎ着しやすいようにスナップがついているものを作ってきてくれました。イディル(共演のマレーシア人俳優イディル・プトラ)なんて、上手く言葉にもできないような手に付ける小道具を、「こんな感じのがあったら」と言っていたら横で聞いていた小道具さんがちゃんと勝手に次の日までに作ってくれていた。そういった、より良いものを作ろうと細部にこだわる姿勢は、本当に日本独特のものだと思います。イタリアのウディネ・ファーイースト映画祭で『日日是好日』(監督:大森立嗣監督、出演:黒木華樹木希林 他)を観ましたが、日本人のそういった精神をとても良く映し出している作品だと思いました。作法や動作の一つひとつにちゃんと意味がある。それは、かつてはマレー人も持っていたのに既に忘れ去られてしまったその繊細さや粋のようなものであるようにも思えました。マレーシアでも、人のお家に上がる時のサンダルの脱ぎ方だって、昔はちゃんと意味があったんですよ。こう揃えたらちょっとお邪魔するだけとか、こっちに置いてあったらお食事頂いてから帰る予定とかね。でも今はみんなただ脱ぎっぱなしですけれど(笑)。マレー文化の中では失われてしまったようなものが、日本文化の中ではどんなに近代化しても生き続けているのだと感銘を受けました。

 

Q:現在、俳優業、監督業と、映画や舞台で幅広く活躍されていますが、今後の予定や展望についてお聞かせください。

A:もっとたくさん映画を作って、私自身が書いた物語を世界の人々と共有していきたいと思っています。舞台の仕事の予定もいくつか入っています。そして姉妹4人で立ち上げた制作会社Artitude Productionsを通して、家族一丸となってよりクリエイティブな作品を発信していきたいというのが今の強い願いです。神のご加護がありますように。

また、日本に戻り、『アジア三面鏡2016:リフレクションズ 鳩』(*2)でご一緒させていただいた行定勲監督や今井孝博撮影監督にお手伝い頂いて映画を撮りたいです。舞台『ビューティフル・ウォーター』でご一緒した役者さんたちも大変素晴らしく、また一緒にお仕事させていただけたらどんなに素敵でしょう。

ここマレーシアでの活動としては、まだ実際に一緒にお仕事をしたことがないけれど、その才能に私自身が日々大きく影響を受けているような素晴らしい方々がたくさんいます。私が執筆し監督する作品の中で、私の好きな俳優さんに演じてもらいたいと思うキャラクターのアイデアがたくさんあるので、それを実現させていきたいです。

 

 

ヤスミン監督没後10周年を迎えるこの7月には、その特集上映のために来日予定のアマニさん。これからも益々発展していくであろう彼女と日本との関係に期待が膨らみます。

 

*1 2018年10月5日~7日に富士見市民文化会館キラリ☆ふじみにて上演された、日本・インドネシア・マレーシア共同制作作品。
*2フィリピン・日本・カンボジアの3人の監督によるオムニバス作品。アマニさんはそのうち行定勲監督作品『鳩』に出演、故津川雅彦さんや永瀬正敏さんと共演。