インタビュー:Sharifah Amani

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2005年、故Yasmin Ahmad(ヤスミン・アフマド)監督の『Sepet』(邦題『細い目』)で衝撃的なデビューを飾ったSharifah Amani(シャリファ・アマニ)さん。その後も『Gubra』(『グブラ』)、『Mualaf』(『ムアラフ~改心』)に出演し、まさにヤスミン監督のミューズとして、マレーシアのみならず日本やインドネシアでも人気の高い女優さんです。また、次女である彼女の他にも、長女Sharifah Aleya(シャリファ・アレヤ、『ムクシン』の少女オーキッドのお母さん役)、三女Sharifah Aleysha(シャリファ・アレイシャ、『ムアラフ~改心』の妹役)、四女Sharifah Aryana(シャリファ・アルヤナ、『ムクシン』のオーキッド役)の4姉妹がそれぞれに活躍、シャリファ・シスターズと呼ばれています。デビューから14年。あのあどけない『Sepet』のオーキッドから美しい大人の女性へと成長した彼女ですが、これまで積み重ねてきた彼女のキャリアには、ヤスミン監督との強い結びつきと共に、家族からの強力なサポートが不可欠であったように思えます。その辺りのお話を伺ってみました。

 

Q:若草物語のような四姉妹の次女として育たれましたが、他の3人、そしてご両親共にとても仲の良い家族という印象を受けます。何がそのような強い家族の絆を生み出していると思いますか?

A:私の父母は二人とも、面白くて賢くて、小さい頃から私たち姉妹のヒーローでした。そんなヒーローたちにすごいと思ってもらいたくて、そのために自分を高めたいという気持ちが常に私たちの中にあったと思います。今日はこんな本を読んだ、こんな面白いものを見たと、両親に挙って報告する毎日でした。そして両親は私たちに、家族だけはどんなことがあっても絶対に私たちを守り、愛し続けてくれる存在なのだと繰り返し教えてくれました。だから、どんな行動をとるにしても、それに対して私の両親が、そして姉妹たちがどう思うかということが一番気になります。なにかちょっと悪さをしそうになった時も、彼らの顔が目に浮かびます。自分が出演している作品をまず観て欲しい、まず彼らの感想を聞きたいと思うのは、良い所を褒めるだけでなく、ダメなところも厳しい目できちんと批判してくれると信頼しているからだと思います。

 

Q:そして、四姉妹ともクリエイティブに成長されましたね。皆さんそれぞれにテレビ、映画、舞台、プロデューサー業等々、各方面で活躍されています。それにはやはり、女優のお母様と写真家でもあるお父様やその周囲の方々の影響があるのでしょうか?

A:それはもう、避けられない環境だったと言ってよいと思います。よく両親に連れていかれて映画やお芝居、展覧会のオープニングへと足を運びましたし、母は新聞記者としても働いていましたので、学校が終わるとそのまま新聞社へ連れて行かれ、母の仕事が終わるまでそこで時間を過ごす、ということもしょっちゅうありました。その頃よく面倒を見てくれていた若手の記者達は、今は皆もう立派な編集者になっています。
父は良く私たちに、当時の私たちの年齢にはちょっと早過ぎるような大人向けのものを率先してみせてくれました。麻薬の恐ろしさを教えるために『トレインスポッティング』を、人権問題を学ぶために『カラーパープル』を見せられたことを覚えています。そしてその後に必ず議論の時間があり、私たちが疑問に思ったことに対して、はぐらかすとか適当に答えるとかいうことは絶対にありませんでした。疑問を抱くことは良いことで、どんな質問にもきちんと答えてくれる。答えるのが難しい時は、一緒に考えてくれる。そうやって、モラルや社会問題などを幼いころから芸術作品を通して学んでいったのだと思います。

 

Q:アマニさんは、日本とのつながりも強いようにお見受けします。日本の映画や舞台の制作現場から受ける印象というのはどういうものでしょうか?

A:必要であると感じたら、言われなくても自主的に動くという姿に何度も驚かされました。例えば『ビューティフル・ウォーター』(*1)の中でトゥドゥン(ヘッドスカーフ)を被るという話をしていた時に、衣装変えを素早くしないといけないからマレーシアで手に入るようなインスタントのもの(ストレッチ素材でスポっと被るだけで形になるもの)がいいんだけどと言っていたら、ものの数十分で衣装さんがちゃんと脱ぎ着しやすいようにスナップがついているものを作ってきてくれました。イディル(共演のマレーシア人俳優イディル・プトラ)なんて、上手く言葉にもできないような手に付ける小道具を、「こんな感じのがあったら」と言っていたら横で聞いていた小道具さんがちゃんと勝手に次の日までに作ってくれていた。そういった、より良いものを作ろうと細部にこだわる姿勢は、本当に日本独特のものだと思います。イタリアのウディネ・ファーイースト映画祭で『日日是好日』(監督:大森立嗣監督、出演:黒木華樹木希林 他)を観ましたが、日本人のそういった精神をとても良く映し出している作品だと思いました。作法や動作の一つひとつにちゃんと意味がある。それは、かつてはマレー人も持っていたのに既に忘れ去られてしまったその繊細さや粋のようなものであるようにも思えました。マレーシアでも、人のお家に上がる時のサンダルの脱ぎ方だって、昔はちゃんと意味があったんですよ。こう揃えたらちょっとお邪魔するだけとか、こっちに置いてあったらお食事頂いてから帰る予定とかね。でも今はみんなただ脱ぎっぱなしですけれど(笑)。マレー文化の中では失われてしまったようなものが、日本文化の中ではどんなに近代化しても生き続けているのだと感銘を受けました。

 

Q:現在、俳優業、監督業と、映画や舞台で幅広く活躍されていますが、今後の予定や展望についてお聞かせください。

A:もっとたくさん映画を作って、私自身が書いた物語を世界の人々と共有していきたいと思っています。舞台の仕事の予定もいくつか入っています。そして姉妹4人で立ち上げた制作会社Artitude Productionsを通して、家族一丸となってよりクリエイティブな作品を発信していきたいというのが今の強い願いです。神のご加護がありますように。

また、日本に戻り、『アジア三面鏡2016:リフレクションズ 鳩』(*2)でご一緒させていただいた行定勲監督や今井孝博撮影監督にお手伝い頂いて映画を撮りたいです。舞台『ビューティフル・ウォーター』でご一緒した役者さんたちも大変素晴らしく、また一緒にお仕事させていただけたらどんなに素敵でしょう。

ここマレーシアでの活動としては、まだ実際に一緒にお仕事をしたことがないけれど、その才能に私自身が日々大きく影響を受けているような素晴らしい方々がたくさんいます。私が執筆し監督する作品の中で、私の好きな俳優さんに演じてもらいたいと思うキャラクターのアイデアがたくさんあるので、それを実現させていきたいです。

 

 

ヤスミン監督没後10周年を迎えるこの7月には、その特集上映のために来日予定のアマニさん。これからも益々発展していくであろう彼女と日本との関係に期待が膨らみます。

 

*1 2018年10月5日~7日に富士見市民文化会館キラリ☆ふじみにて上演された、日本・インドネシア・マレーシア共同制作作品。
*2フィリピン・日本・カンボジアの3人の監督によるオムニバス作品。アマニさんはそのうち行定勲監督作品『鳩』に出演、故津川雅彦さんや永瀬正敏さんと共演。