第33回東京国際映画祭観劇レポート

 

以前の記事に書きましたが、今年(2020年)10月31日~11月9日まで開催された第33回東京国際映画祭では、マレーシア出身の監督による作品が3作上映されました。遅くなってしまいましたが、観劇してきましたので、その報告です。

 

◆Malu 夢路(エドモンド・ヨウ監督)

(TOKYOプレミア2020 国際交流基金アジアセンター共催上映)

https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3301TKP20

 

2017年にマレーシア人では初めて東京国際映画祭の最優秀監督賞を受賞したエドモンド・ヨウ監督の最新作のワールド・プレミア。TIFFで上映された後、いくつかの映画館で劇場公開されました。

 

ホンとランの姉妹は、幼いころ母親が心を病んでしまったため、離れ離れになります。姉のホンは祖母に引き取られ、妹のランはそのまま母親と。ホンが引き取られた祖母の家は、金銭的には余裕がありましたが、厳格な祖母の下で厳しく育てられます。そして20年後、母親の死をきっかけに、2人は再会し、一緒に暮らし始めます。しかしある日、ホンが目を覚ますと、ランの姿はなく、数年後ランの遺体が日本で見つかったという知らせを受けます。ホンは日本へ向かい、日本でのランの様子を聞きますが、そこにはホンが全く知らなかったランの姿が…。

 

エドモンド監督らしい、詩情に溢れた美しい映像で、ちょっと不思議な物語が紡がれていました。ホンとランの姉妹は、おそらく2人とも互いのことを気にかけあっていたのに、それを伝えることは難しかったのかなと思うと、ちょっとせつない気持ちになりました。

 

◆カム・アンド・ゴー(リム・カーワイ監督)

(TOKYOプレミア2020 国際交流基金アジアセンター共催上映)

https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3301TKP08

 

大阪を拠点に活動するリム・カーワイ監督。「新世界の夜明け」「FLY ME TO MINAMI~恋するミナミ~」に続いて、大阪を舞台にした作品です。「新世界の夜明け」では主に日中関係を、「FLY ME~」では大阪と香港、韓国の人たちの物語でしたが、「カム・アンド・ゴー」では、韓国、ネパール、ミャンマーベトナムとより広いアジア地域出身の人々や、また沖縄や徳島出身の日本人など、本当に様々なバックグラウンドを持った人々が登場します。

 

彼・彼女たちは、大阪の「キタ」地域ですれ違い、接点を持つこともありますが、深く絡み合うことはなく、それぞれがそれぞれの問題を抱え、生きていきます。

 

帰国したいのに、帰国することができないベトナム人技能実習生、アルバイトのし過ぎで倒れてしまうミャンマー人留学生、詐欺まがいの手を使って、素人の女性をAVに出させようとする沖縄出身のAV監督、それにひっかかりそうになってしまう、徳島出身の女の子…、一瞬ドキュメンタリーだったっけ?と思ってしまうようなリアルな群像劇でした。

 

リム・カーワイ監督ですが、バルカン半島を舞台にした新作「いつか、どこかで」が1/2から大阪シネ・ヌーヴォで、1/23から池袋シネマ・ロサで上映予定です。

https://somewhensomewhere.themedia.jp/

 

◆ムクシン【4Kデジタル修復版】(ヤスミン・アフマド監督)

ワールド・フォーカス ディスカバー亜州電影 国際交流基金アジアセンター共催上映

https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3304WFC14

 

「ムクシン」は、日本でもおなじみのヤスミン・アフマド監督のオーキッド3部作の1作。2006年のTIFFでも上映されましたが、今回はフ4Kデジタル修復が行われ、そのワールド・プレミアでした。国際交流基金は、東南アジアの名作映画のデジタル修復を行っていて、昨年はミャンマーの「日本の娘」が国立映画アーカイブで上映されました。

 

「ムクシン」は、10歳の少女オーキッドと12歳の少年ムクシンの淡い初恋の物語です。両親の離婚後、兄と一緒に父親に育てられていたムクシンは、学校の休みに、おばさんの住む村にやってきて、オーキッドと出会います。最初こそ、少し反発しあった2人ですが、すぐに打ち解け、ムクシンはオーキッドや、ちょっと風変わりながらも愛に溢れたオーキッドの両親、お手伝いさんとの交流に、楽しい時間を過ごします。しかしムクシンが、まもなく自分の村に戻る日が近づいたある日、あることがきっかけで、ムクシンとオーキッドは仲たがいをしてしまい…。

 

異なる民族や宗教を持つ人の交流を描くことが多いヤスミン監督の映画の中で、マレー系の村を舞台に、登場人物がほとんどマレー系の「ムクシン」は、少し毛色の異なる作品かも知れません。しかし、一風変わったオーキッドの家を批判してばかりで、子どもに噂話を吹き込んだり、時には子どもを使って、面前で悪口を言わせる隣家の主婦、しかし、自分の家庭では、夫が既婚者であることを隠して、他の女性と付き合い、ついには結婚(一夫多妻婚)をしてしまったり、ムクシンの父親のDV、兄の飲酒や素行不良、村での噂話など、マレー映画の中では、理想郷のような描かれ方をすることが多い、村の問題も生々しく、しかし愛情をもって描き出しているのが、ヤスミン監督らしいと思う映画です。

 

せっかく4Kデジタル修復されたので、どこかの映画館でまた上映されることを期待したいです。